近年、画像生成AIの分野で注目を集めているのが「LoRA(Low-Rank Adaptation)」という技術です。これは、既存のAIモデルを一から学習し直さなくても、特定のキャラクターやアートスタイルなどを効率よく追加できる画期的な手法です。
ファイルサイズが小さく、カスタマイズ性にも優れているため、個人クリエイターから企業のブランディングまで幅広く活用されています。本記事では、LoRAの基本からできること、メリット・デメリット、活用サービスまでをわかりやすく解説します。
AI分野におけるLoRAとは?
LoRA(Low-Rank Adaptation)とは、AIモデルに新しい特徴やスタイルを追加するための軽量で効率的なファインチューニング手法です。
ファインチューニングとは、すでに学習済みのAIに対して「少量の追加学習を行い、目的に合うよう微調整する作業」のことです。たとえば、「犬の写真をたくさん学習したAI」に「特定の犬種だけをもっと詳しく覚えさせる」といったイメージで、これによってゼロから作るよりも早く、少ないデータで目的に合った出力が可能になります。
従来、AIモデルをカスタマイズするには莫大な計算資源と時間が必要でしたが、LoRAを使えばモデル全体を再学習することなく、一部のパラメータだけを調整することで、高品質なチューニングが可能になります。
とくに画像生成AI(Stable Diffusionなど)との相性が良く、たとえば「自分だけのキャラクター」「企業ロゴにマッチした作風」などを再現する際に活用されています。以下に、LoRAの基本的な特徴をまとめた一覧表を掲載します。
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 名称 | LoRA(Low-Rank Adaptation) |
| 目的 | 既存のAIモデルに新しい情報や特徴を追加する |
| 主な用途 |
など |
| 特徴 | モデル全体を再学習せず、一部だけを小さな追加ファイル(LoRA)で学習させる |
| メリット |
|
| デメリット |
|
| 活用されるAIモデル | 主にStable Diffusionなどの画像生成モデル |
| 入手・共有方法 | CivitaiやHugging Faceといった共有サイトからダウンロード可 |
LoRAは高度なAI技術を手軽に扱えるようにした仕組みとして、画像生成の現場でますます注目を集めています。
なお以下の記事では、同じ画像生成AIツール「SeaArt」についても解説しています。今回紹介しているLoRAとの違いなどを把握したい方は、参考にしてください。
LoRAでなにができる?
LoRAを活用することで、既存のAIモデルに自分だけのキャラクターや作風を追加することが可能になります。再学習の手間なく、画像生成AIに好みや個性を注入できる点が大きな魅力です。
以下に具体的な活用例を紹介します。
- 特定のキャラクターやアートの再現
- 企業・ブランド向けにカスタムした画像の生成
- 民族衣装やサブカルファッションの表現強化
①特定のキャラクターやアートの再現
LoRAは、アニメ・ゲーム・実在人物などの特徴を学習させ、画像生成AIに「そのキャラらしさ」や「独特のタッチ」を再現させるのに最適です。たとえば、髪型や服装、目の色、ポーズなど細かなディテールも高精度に再現可能になります。
実際にファンアートや二次創作などでも使われており、特定のキャラを何度でも安定して描けるのが魅力です。既存のモデルでは出せなかった「再現力」をLoRAが実現しています。
②企業・ブランド向けにカスタムした画像の生成
LoRAは、企業ロゴのカラーやブランドイメージに合ったビジュアル表現を生成するためにも活用されています。
たとえば、飲料メーカーの広告用に「そのブランドらしい人物像」や「世界観に合う背景」を再現したいとき、LoRAを適用することで、ブランド独自のトーンやテイストを安定して反映できる、といった具合です。
カタログ、広告、SNS投稿など、多様なビジュアル制作の幅を広げる手段として活用されつつあります。
③民族衣装やサブカルファッションの表現強化
特定地域の民族衣装やサブカル系ファッション(例:ロリータ、パンク、サイバーファッションなど)の高精度な再現も、LoRAの得意分野です。通常のAIモデルでは見落とされがちな細かな装飾や生地の風合いまで学習させられるため、文化的・芸術的な表現の幅が一気に広がります。
多様性のあるキャラクターデザインや、文化を取り入れたアート制作においてLoRAは非常に有効です。
LoRAのメリット

LoRAは効率的かつ自由度の高いAIカスタマイズを実現する手法として、多くのクリエイターに支持されています。再学習の必要がない点や、自分だけのスタイルを手軽に反映できる点が魅力です。
ここでは、LoRAの主なメリットを詳しく見ていきましょう。
- モデル全体を再学習しなくていい(時間&コスト激減)
- 自分専用のキャラや作風を追加できる
- カスタマイズが無限にできるため独自性を生みやすい
- ファイルが軽量のため管理も楽
①モデル全体を再学習しなくていい(時間&コスト激減)
通常、AIモデルを新しい目的で使うには、大量のデータと高性能なマシンで再学習を行う必要があります。しかし、LoRAではモデル全体を再学習する必要がなく、一部のパラメータだけを効率的に学習させることが可能です。
その結果、学習時間の短縮、GPU負荷の軽減、学習コストの削減といった大きな利点が得られます。個人でも比較的簡単にチューニングできる点も、普及を後押ししています。
②自分専用のキャラや作風を追加できる
LoRAを使えば、自分だけのキャラクターやアートスタイルをAIに覚えさせることができます。たとえば
- 青い髪でメカ風の服を着たオリジナルキャラ
- 自作のイラストタッチ
などを学習させれば、他では見られない独自の画像を生成可能になります。
テンプレート的な出力では物足りないと感じる人にとって、LoRAは個性を反映できる強力な武器になるでしょう。
③カスタマイズが無限にできるため独自性を生みやすい
LoRAでは、好きな作風やテーマを自由に組み合わせて学習させることができます。キャラの表情・衣装・背景・色調など、複数のLoRAを重ねて使うことも可能なため、「こんな雰囲気の絵を出したい」という要望に柔軟に対応できます。
生成される画像が他人と被らない、ユーザーだけの独自表現に仕上がります。それによって、商用クリエイティブやSNS運用でも差別化しやすくなります。
④ファイルが軽量のため管理も楽
LoRAは、追加学習部分だけを保存する軽量ファイルとして扱われます。一般的に数MB〜数百MB程度と小さく、PCやクラウドに複数保存しても管理がしやすいのが特長です。
モデル自体をまるごと保存する必要がないため、ストレージの圧迫もなく、プロジェクトごとにLoRAファイルを切り替える運用もスムーズです。軽くて柔軟に扱える点は、創作作業を継続するうえで大きな強みといえます。
こうした生成AI技術のあらゆるメリットを存分に活かし、イラスト・画像制作を副業として行う方もいます。事例については以下の記事もお読みください。
LoRAのデメリット・注意点

LoRAは非常に便利な技術ですが、すべてが万能というわけではありません。使い方によっては意図しない表現が出たり、調整に時間がかかったりすることもあります。
ここでは、LoRAを活用する際に知っておくべき注意点やデメリットを整理して紹介します。
- すべての用途に使える汎用性はない
- 細かな調整や設定に手間がかかりがち
- 差別的な表現や偏りのリスクもある
①すべての用途に使える汎用性はない
LoRAは特定の目的に対して最適化された微調整手法であり、万能型のソリューションではありません。たとえば、テキスト生成や音声合成といった分野ではまだ十分に活用されておらず、画像生成に強く依存しているのが現状です。
また、細かな動作やシーン表現など、複雑なコンテキストが必要な場合には思った通りに動かないこともあります。使用範囲はしっかり見極めましょう。
②細かな調整や設定に手間がかかりがち
LoRAは導入こそ手軽でも、細かい再現性を高めようとすると手間がかかる側面があります。たとえば「目の形」や「衣装の質感」など特定の要素を忠実に再現したい場合、複数のLoRAを組み合わせたり、プロンプトを何度も試行錯誤したりする必要があります。
また、モデルやLoRAのバージョン違いによっては出力結果に差が出ることもあり、一定の知識と慣れが求められます。
③差別的な表現や偏りのリスクもある
LoRAを通じて学習される内容は、元データの影響を強く受けます。そのため、意図せず差別的な表現や文化的偏見が含まれてしまうことがあります。
特定の民族やジェンダー表現に偏りが生じる可能性があるため、公共向けのコンテンツや商用利用ではとくに注意が必要です。また、出力結果を第三者に公開する際は、ガイドラインの遵守にも気を遣わなければなりません。
LoRAが入手できるサービス
LoRAは高性能かつ軽量なので、世界中のクリエイターや企業が簡単に共有・取得できる環境が整っています。代表的なサービスとして、ユーザーコミュニティとモデルハブを兼ね備えた以下2つをご紹介します。
- Civitai
- Hugging Face
①Civitai
Stable Diffusionに対応したLoRAやモデルを、世界中のユーザーが共有している専門サイトです。「着物姿の女性」や「ロボット風キャラ」など、テーマごとのLoRAが豊富に用意されており、気に入ったものをそのままダウンロードして使えます。
使い方もシンプルで、LoRAファイル(拡張子.safetensorsなど)をダウンロードし、Stable Diffusionの環境に読み込むだけでOK。LoRAを使った画像生成の実例や、どのプロンプトで再現できるかなども併せて公開されているので、初心者にも親切です。
今回紹介しているような「特定キャラを再現する」「独自スタイルを作る」目的にぴったりのLoRAが見つかるでしょう。
②Hugging Face
AIモデル全般を扱う世界最大級のプラットフォームで、LoRAも数多く公開されています。Civitaiが画像生成に特化しているのに対し、こちらは開発者や研究者向けに、LoRAの技術そのものを学ぶのにも最適です。
LoRAを使ったモデルの訓練方法、コード例、仕組みの解説も豊富に掲載されているため、「LoRAを一から作ってみたい」「仕組みを詳しく知りたい」という人におすすめです。もちろん、Stable Diffusion用のLoRAも多数アップロードされており、検索すればそのまま使えるモデルも見つかります。
LoRAの使い方・手順
LoRAは画像を生成するツールそのものではなく、Stable Diffusionなどの画像生成AIモデルに「新たな表現やキャラクターやスタイル」を追加・拡張するための追加ファイルのようなものです。そのため、ここではStable DiffusionにLoRAを取り込んで使う方法を紹介します。
手順は以下のとおりです。
- Civitaiから、使いたいLoRAファイルをダウンロード
- ダウンロードしたLoRAファイルを、/models/Loraフォルダに保存する
- 「Stable Diffusion Web UI」で保存したファイルを読ませる
それぞれ順に解説します。
①Civitaiから、使いたいLoRAファイルをダウンロード
まずはCivitaiから、ファイルのダウンロードを行います。ダウンロード手順は以下のとおりです。
- Civitaiのトップページを表示させる
- 上部にある検索窓から、任意のキーワードを入力
- 画像検索結果画面が出たら、左側のフィルターで「LoRA」にチェック
- お気に入りの画像をクリックし、ダウンロード
ひとえに画像といっても、さまざまなニュアンスの画像が出てくるので、自分が使いたいと思うものをダウンロードしてください。その後、次のステップに進みます。
②ダウンロードしたLoRAファイルを、/models/Loraフォルダに保存する
「/models/Loraフォルダ」というのは、Stable Diffusionのフォルダの一角のことで、ファイル管理ソフトの「stable-diffusion-webui→models→Lora」という形で置かれています。Stable Diffusionをダウンロードしていない方は表示されない、まずはダウンロードからはじめましょう。
①のファイルをLoraフォルダに保存したら、次に進みます。
③「Stable Diffusion Web UI」で保存したファイルを読ませる
「Stable Diffusion Web UI」というのは、Stable DiffusionでAIイラストが作れる操作画面のことです。
- LoRAタブをクリック
- プロンプトにLoRAタグを追加
- 実行
Stable Diffusion Web UIの画面にあるLoRAタブを選択した状態で、LoRAタグを入力します。LoRAタグの形式は、次のとおりです。
<lora:LoRAのID:LoRA適用の強度(数字)>
具体例としては、以下のようになります。
<lora:libbg_r19:0.8>
タグ入力後に生成を実行すると、①で選んだ任意のファイルのようなニュアンスの画像が生成されるようになります。
LoRAに関連するよくある質問
ここでは、LoRAに関連するよくある質問に回答していきます。
LoRAはStable Diffusionの拡張手法として使われ、既存モデルにキャラクターやスタイルを追加できます。モデル全体を再学習せずに、表現力を高められるのが特長です。
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LoRAについてまとめ
LoRAは、AIモデルの再学習を行わずに特定のキャラや作風を効率的に追加できる技術です。画像生成AIと組み合わせることで、個性や表現力を自由に拡張できます。
メリットも多い一方で注意点もあるため、正しく理解しつつ活用していくことが大切です。