多くの人がスマートフォンを持つ社会となり、それを利用した技術やサービスも進化・発展を続けています。さまざまな技術などがあるなかで、その手軽さと汎用性の高さから普及が進んでいるのが「AR」です。
それゆえ、安易にビジネス上の戦略として取り入れたり、AR関連の商品開発を始めたりしようとする企業も少なくありません。確かに便利で高い費用対効果が見込めるものの、開発の際には事前にARの技術や仕組みなどを理解しておくことが不可欠です。
何も知らないまま取り組むと、ARの開発やサービス提供にかけたコストや労力などが無駄となる可能性もあります。
本記事では、事前に知っておきたいARの技術や仕組み、活用事例や開発方法などについて解説します。
ARの技術とは
ARは「拡張現実」と呼ばれる技術です。英語では「Augmented Reality」と表記されるため、それぞれの単語の頭文字をとりARと略されています。
拡張現実と表現されるとおり、部屋の中や街中などにバーチャルの映像やデジタル情報を重ねて映し出し、まるで現実世界を広げるかのような技術がARです。
スマートフォンの画面に映った現実世界に3Dキャラクターなどを表示させ一体感を演出する技術とイメージするとわかりやすいでしょう。
AR技術が活用されている分野
ARは、すでに多くの業界や分野で活用されています。例えば、ゲーム業界です。実在する風景とバーチャルの映像を重ね合わせられるため、これまでとは異なった世界観を表現できます。
企業のプロモーション活動も例外ではありません。新商品を発表する際、それらにちなんだAR体験を消費者へと提供することで購買意欲を掻き立てられます。質の高いARであればSNSなどで拡散され、企業の想定以上の効果を生み出すことも可能です。
建築業界や教育の分野でもARの技術を用いるケースが増えてきています。技術の進化により、これまで以上に活用されていくことになるでしょう。
ARと似ている技術と比較
バーチャルのコンテンツやデジタル情報などを用いた技術は複数存在し、それぞれの違いを理解している人はまだ多くはないでしょう。ここでは、ARと似ている技術としてVR・MR・SRとARとの比較を以下にまとめました。
ARと比較した技術 | 解説 |
VR | ・自分自身がバーチャルの世界に入り込んだ体験ができる点がVRの特徴 ・本格的なVR体験を楽しむには、費用やデバイスなどの用意が必要な点もARとの大きな違い |
MR | ・現実世界にバーチャルの映像やデジタル情報を映し出すという点ではARと変わらない ・VRのように専用のヘッドセットなどを装着するところがARと異なる ・視界に映し出される情報はARよりも多く、そのデジタル情報に触れたり質の高いバーチャル映像を体験したりすることが可能 |
SR | ・現実世界を過去など別の世界に置き換えることで、あたかもその別の世界にいるかのような体験ができる ・リアルタイムで現実世界と別の世界とを重ね合わせ没入感を演出しなければならないため高度な技術が不可欠 ・ARやVRなどほかの技術と比較すると普及はしていないが、今後の進化・発展が期待される |
詳しく解説していきます。XRについても紹介するので、ぜひ参考にしてください。
VRとの比較
「Virtual Reality」の頭文字をとった略語で「仮想現実」と訳されるVRは、バーチャルの世界を作り上げ、その中で活動したり他者とコミュニケーションをとったりできる技術です。
専用のゴーグルやヘッドセットを装着し、視界全体に仮想の世界を映し出します。あくまでも現実世界をベースに、そこにデジタル情報を映し出すARと異なり、あたかも自分自身がバーチャルの世界に入り込んだ体験ができる点がVRの特徴でしょう。
スマートフォンを専用のゴーグルに装着し利用できる簡易的なVRもありますが、本格的なVR体験を楽しむには費用やデバイスなどを用意しなければなりません。この点もARとの大きな違いです。
MRとの比較
MRは「Mixed Reality」の略語で、日本語では「複合現実」と表現されます。現実世界にバーチャルの映像やデジタル情報を映し出すという点ではARと変わりません。
ARとの違いは、VRのように専用のヘッドセットなどを装着するところにあります。視界に映し出される情報はARよりも多く、そのデジタル情報に触れたり質の高いバーチャル映像を体験したりすることが可能です。
ARとVRを組み合わせたような技術とも、ARを進化させた技術ともいわれています。
SRとの比較
「Substitutional Reality」の略語で、日本語では「代替現実」と表現されるのがSRです。現実世界を過去など別の世界に置き換えることで、あたかもその別の世界にいるかのような体験ができます。
単にバーチャルな情報を映し出すだけではなく、リアルタイムで現実世界と別の世界とを重ね合わせ没入感を演出しなければならないため高度な技術が不可欠です。
ARやVRなどほかの技術と比較すると普及はしていないものの、今後の進化・発展が期待されています。
XRとは
「Extended Reality」の略語であるXRは、現実とバーチャルとを組み合わせた技術や体験の総称です。
つまり、ARやVRなどはXRに含まれる技術といえます。単にXRと表現するだけでは、具体的な技術や世界観が伝わりづらいため要注意です。その場の状況に応じて、ARやVR、MRなど特定の技術名を挙げる必要があるでしょう。
AR技術の具体的な仕組み
ARには表示させるコンテンツと、それを表示させるためのきっかけや印が必要で、デジタルコンテンツと開発の段階で紐づけておきます。
きっかけとなる情報をスマートフォンなどのカメラやセンサーで読み取ると、紐づけておいたデジタルコンテンツが画面上に表示される仕組みです。
AR技術の仕組みは上記の通りですが、デジタルコンテンツを表示させるためのきっかけや印によって使用される技術などは異なります。以下に代表的なAR技術の種類を挙げながら、それぞれの特徴をみてみましょう。
ビジョンベースARの仕組み
ビジョンベースARとは、目に見えるものをコンテンツ表示のきっかけや印などとするタイプです。
画像や写真を活用する「マーカー型」や、空間や物体、人の顔などを活用する「マーカーレス型」などに分けられます。デバイスのカメラ機能に画像や物体を認識させ、あらかじめ紐づけておいたデジタルコンテンツを表示させる仕組みです。
ロケーションベースARの仕組み
ロケーションベースARは、スマートフォンなどに搭載されたGPS機能にデバイスのある位置を認識させ、紐づけておいたデジタルコンテンツを表示させる仕組みとなっています。
磁気センサーや加速度センサーなどが活用されることも少なくありません。開発には高度な技術が不可欠なため、ユーザーを満足させるには多くの時間やコストなども必要になってくるでしょう。
AR技術の活用事例
AR技術の活用は、業界や分野を限定せず広がり続けています。ここでは、AR技術の活用事例をいくつか紹介しましょう。
ポケモンGO
世界中で人気を博しているポケモンのゲームアプリ「ポケモンGO」でAR技術を知った人も少なくないでしょう。
街中を歩くとスマートフォンのGPS機能が位置情報を認識し、各情報に紐づけられたポケモンのキャラクターなどが画面上に出現します。街中でポケモンを探したり対戦させたりできるARゲームアプリです。ポケモン同様「ポケモンGO」も世界中で人気となりました。
ベイクルーズ
セレクトショップのベイクルーズでは、自分の部屋やオフィスなどに3Dモデルの家具をバーチャルで試し置きできるARサービスを提供しています。家具を置いた状態をイメージしやすく、購入を検討する際に役立つでしょう。商品を360度回転させ、通常の画像だけでは確認が難しい背面や下部まで詳細にチェックすることも可能です。専用のアプリをインストールする必要もありません。
参照:ベイクルーズストア リアルな部屋作りを体験!実寸で家具配置できるARをリリース
戸田建設株式会社
戸田建設株式会社では、現場を映し出したタブレットに建設機械の3Dモデルを表示できる「建機AR」を開発しています。
工事中の現場の状況や建設機械を動かす際の危険箇所の確認が可能です。結果、建設機械を用いた作業の計画にかかる時間や労力の削減に成功しています。
エンターテインメントや商品の販促活動とは異なり、AR技術をコスト削減や安全性確保のために活用している事例です。
参照:戸田建設株式会社 AR技術で作業所の安全確保と省力化を実現! -建設機械の配置計画を見える化する「建機AR」を開発-
ARの開発方法
ARの開発方法には、いくつかのパターンがあります。大まかに、AR作成専用のサービスやツールを活用する方法と、3DCGソフトウェアやAR開発ツールを活用しゼロから作り上げる方法とに分けられるでしょう。
実際の作業には違いが生じるものの、開発の手順はどちらの方法でも大差はありません。
ここでは、ARの開発方法を手順ごとに解説します。開発方法は次のとおりです。
- 企画や目的を考える
- ツールやアプリを選定・整備する
- コンテンツを用意する
- ARを作成する
- テストや修正を行う
詳しくみていきましょう。
1.企画や目的を考える
まずは、ARを作成する目的を考えます。企画によって、コンテンツの内容だけではなく開発方法も異なってくるでしょう。ARの開発全体にかかわるため、最初の段階で企画や目的を明確にしておかなければいけません。
2.ツールやアプリを選定・整備する
簡易的なARであれば、専用の作成サービスで十分です。ARゲームアプリなどの開発には3DCGソフトウェアといった、プロのエンジニアが扱うような開発環境の整備が欠かせません。企画や目的に合ったツールなどを選定し準備しましょう。
3.コンテンツを用意する
ARは、スマートフォンなどの画面上に表示させるコンテンツが何よりも重要です。3Dコンテンツが主流ですが、2Dのコンテンツが使われるケースも珍しくはありません。
ゼロからの開発の場合は、活用するコンテンツもすべて作成するのが一般的です。AR作成ツールのなかには、平面画像を立体モデルへと変換してくれるサービスもあります。
企画や目的に沿ったコンテンツを、費用対効果なども考慮しながら用意しましょう。
4.ARを作成する
整備した開発環境のもと、用意したコンテンツを用いてARを作成します。AR作成サービスを利用すれば、マーカーとコンテンツの紐づけも難しくありません。
ゼロから開発する場合はプログラミングによる設計が不可欠です。精度を高めたり機能を増やしたりするほどに、高度なプログラミング技術が必要となるでしょう。
5.テストや修正を行う
作成したARが問題なく表示されるか、ARアプリが適切に作動するかなどのテストを行います。問題が生じたら修正しましょう。
企業が商品としてリリースしたり販促活動の一環として活用する場合、いわゆるバグが生じると消費者にネガティブな印象を与えかねません。商品の売上にも悪影響を及ぼすおそれがあるので、開発方法にかかわらずテストや修正は念入りに行う必要があります。
ARの技術についてまとめ
スマートフォンなどのデバイスを通して、現実世界にバーチャルの映像やデジタル情報を付け加えて表示させるのがAR(拡張現実)の技術です。仮想現実を意味するVRなどとは区別されるので注意しなければいけません。
また、ARとVRの組み合わせとも表現されるMR(複合現実)についても押さえておきましょう。ARは、特定の画像や空間などとデジタルコンテンツとを紐づけ、その画像などをきっかけとしてデバイス上にコンテンツを表示させる仕組みとなっています。
開発の際には、企画や目的などに合った方法や種類を選択することも重要です。ユーザーが価値を感じるようなARへと仕上げることを意識しつつ開発へと取り組みましょう。