拡張現実を意味するARは、今ではさまざまなところで活用されています。エンターテイメントの分野ではもちろん、企業の業務や研修などビジネスの分野で活用されている例も少なくありません。
ARを楽しむための技術の一つとして「ARマーカー」があります。ARマーカーを活用すれば、誰でも手軽にARを楽しむことが可能です。
本記事では、ARマーカーとは何かについて解説し、種類や活用事例とともに、ARマーカーを無料で作成できるサービスについても紹介します。
ARマーカーとは?
ARとは「拡張現実」を意味する「Augmented Reality」の略語で、スマートフォンやタブレットなどのデバイスに映し出した現実世界に、オリジナルのデジタル情報をコンテンツとして加えられる技術です。
画面を通すと、現実の風景や場所に新たなキャラクターや物体などが表示され、世界が広がるような映像を作り出せるため、拡張現実と表現されています。
ARマーカーとは、このARを表示させるためのトリガーとなるものです。起動させたスマートフォンのカメラなどにARマーカーを映し出すことで、画面上に拡張現実の世界が広がることになります。
デジタルコンテンツを表示させるためのきっかけとなる画像や物体がARマーカーであると理解しておくとよいでしょう。
ARマーカーと類似語の違い
ARマーカーとしばしば混同されるものに、QRコードがあります。スマートフォンのカメラなどに表示させることで特定のサイトへと移行できるなどの技術がQRコードです。
カメラで読み込ませることが次のアクションのきっかけとなる点は同様ですが、ARマーカーが画像やイラスト、物体などさまざまなものを設定できるのに対し、QRコードは平面かつ白黒といった特定のパターンのみでしか作成できません。
また、ARマーカーはデザインはそのままで、読み取ったあとに表示させるコンテンツの変更ができますが、QRコードは基本的には不可能です。
さらに、ARマーカーはGPS情報との連動やコンテンツのランダム表示などが可能であるのに対して、QRコードは、こうした特徴や機能も備えてはいません。
ただ、QRコード状のARマーカーも存在しており、そうしたものであれば、デザインはQRコードと大差はないもののARマーカーと同様の機能をもたせることが可能です。
このようなケースでは、ARマーカーなのか、それともQRコードなのかは、その都度判断する必要があるでしょう。
ARマーカーの種類
ARマーカーには、「指定マーカー」と「フリーマーカー」があり、「マーカーレス」もARマーカーの一つとして数えられるケースがあります。ここでは、それぞれの種類の特徴について解説しましょう。
指定マーカー
指定マーカーは、正方形マーカーとも呼ばれ、黒い四角形の枠の中に図柄が描き込まれたタイプのARマーカーです。図柄は白黒のものが一般的ですが、QRコードのような複雑さは基本的にはありません。
一見してARマーカーであることが認識でき、読み込みやARの表示もしやすく、高い安定性を発揮するのが指定マーカーの特徴です。
一方で、デザイン性に趣向を凝らすのが難しく、個性を出しづらい点はデメリットといえるでしょう。フリーマーカーとともに、画像型マーカーと呼ばれることもあります。
フリーマーカー
フリーマーカーも画像型マーカーの一つですが、指定マーカーとは異なり規定のルールなどがありません。ARマーカーのデザインを自由に設定できる点が、フリーマーカーの最大の特徴です。そのため、自由形マーカーと表現されるケースもあります。
イラストはもちろん、写真や独自で作成した画像などもARマーカーとして設定可能です。個性も出しやすいため、商業的な利用が進んでいるタイプといえるでしょう。
商品の一部にARマーカーとして画像を仕込んだり、ARマーカーそのものをデザインとして楽しんだりすることができます。
事前にARマーカーとして画像やイラストなどを登録・設定しますが、デザインによっては読み込みが遅くなるなどの弊害が生じやすい点がフリーマーカーのデメリットです。
指定マーカーのような認識しやすいARマーカーではないため、設定したにもかかわらず、コンテンツが表示されないといった不具合もありえます。技術の進化により精度は上がってきているものの、こうした点にも注意しながらARマーカーとして設定することが肝要です。
マーカーレス
マーカーレスはマーカーがないことを意味しますが、ARマーカーの一部として捉えられるケースも少なくありません。
「空間認識型マーカー」や「ロケーション型マーカー」と呼ばれることも多いマーカーレスタイプは、特定の場所や地面、建物などをマーカーとしてARを表示させます。
画像やイラストなどではなく空間情報や物体情報をマーカーとするためマーカーレスと呼ばれていますが、対象をカメラで表示させARを呼び起こさせるという点は、指定マーカーやフリーマーカーと同様です。
ARマーカーの活用事例
ARマーカーは、すでに多くの分野や業界で活用されており、決して珍しいものではありません。スマートフォンを所有しているのが当たり前の時代となっているため、重要なプロモーション活動の一環として活用する企業も増えてきています。
ここでは、次のARマーカーの活用事例を紹介します。
- REWILD NINJA SNOW HIGHLAND
- 東京メトロ
- 教科書AR
詳しくみていきましょう。
REWILD NINJA SNOW HIGHLAND
長野県須坂市にあるスキー場「REWILD NINJA SNOW HIGHLAND」では、リニューアルオープンの際にARマーカーを活用し、プロモーションを行っています。
場内に設けられた「ARニンジャ壁」と呼ばれるスペースにスマートフォンをかざすと、画面上で巨大な手やニンジャが飛び出し踊るといった内容です。
この事例では、ARニンジャ壁がARマーカーとしての役割を果たしています。飛び出した巨大なニンジャと写真撮影もでき、SNSなどへの投稿も可能です。
参照:PR TIMES
東京メトロ
東京メトロでは、トンネルをはじめとした構造物の維持管理のための教育用ツールとしてARを活用しています。
土木構造物の検査の際にタブレットを使用し、専用のアプリでARマーカーを映し出すと、想定される通常とは異なった状態がARとして画面上に出現する仕組みです。
この技術により、実際の検査や維持管理にかかわる業務を疑似体験できます。指定マーカーが貼り付けられる箇所ではそれで対応し、困難な箇所に関しては空間情報を、例えばトンネルの壁面自体をマーカーとして採用している点も特徴的です。
教育の精度の向上や業務の効率化に寄与している事例といえるでしょう。
参照:PR TIMES
教科書AR
東京書籍では「教科書AR」として、教科書の一部ページで画像や図形などが拡張現実として飛び出すAR技術を採用しています。AR技術が採用された各ページの画像や図形がARマーカーとして機能しており、無料のアプリを利用することでARの体験が可能です。
平面のみではわかりづらい構造物や図形などを理解しやすくなったり、学習意欲の向上に寄与したりといった効果が期待されています。エンターテイメントや企業研修のみならず、教育現場でもARマーカーが活用され始めていることを示す代表的な事例といえるでしょう。
ARマーカーを無料で作成できるサービス
ARマーカーは、それを登録・設定するなどして、はじめて使用できるようになります。専門的な技術をもっていない場合は、既存のツールやサービスを利用して作成し登録や設定をするのが一般的です。
ここでは、次のARマーカーを無料で作成できるサービスを紹介します。
サービス名 | 詳細 |
palanAR | ・専門的な知識や技術のない人でも、簡単にARを作成できるサービス ・一部サービスは無料のフリープランでも利用できる |
WebARジェネレータ | ・個人制作のAR作成サービス ・手軽に使いやすい |
詳しくみていきましょう。
palanAR
「palanAR」は、専門的な知識や技術のない人でも、簡単にARを作成できるサービスです。palanARで作成可能なAR関連のコンテンツなどは多岐にわたりますが、そのうちの一つにARマーカーがあります。
特定のARマーカーを設定することで、コンテンツやオブジェクトの表示が可能です。palanARには有料プランもありますが、一部サービスは無料のフリープランでも利用できます。
無料プランでも指定マーカーだけではなく、一部フリーマーカーやマーカーレスのサービスも利用できるので、有料プランへの移行の判断材料として試しに作成してみるのもよいでしょう。
WebARジェネレータ
「WebARジェネレータ」は個人制作のAR作成サービスです。自作のGIFアニメや透過PNGなどをARとして表示できるサービスとなっています。画像をアップロードし「作成!」ボタンを押すだけで作れるといった手軽さが魅力です。
同時に、QRコードタイプのARマーカーが作成されます。ARマーカーのデザインに個性などを出すことはできませんが、簡易的なARおよびARマーカー作成サービスとしての機能は問題なく備えており、個人的にARを楽しむぶんには十分なサービスといえるでしょう。
ARマーカーについてまとめ
AR(拡張現実)を呼び起こすトリガーとなるものが「ARマーカー」です。AR技術には欠かせないものとなっており、技術の進化により、ARマーカーそのものを楽しめるようにもなってきています。
ARマーカーの種類は、正方形とその内側での白黒によるデザインで表現される指定マーカーと、デザインや色などを自由に作れるフリーマーカーとに大別可能です。また、空間や具体的な物体をトリガーとするマーカーレスと呼ばれるタイプも、ARマーカーとして捉えられるケースが少なくありません。
いずれのタイプもすでに実用化されており、さまざまな業界や分野で取り入れられています。また、ARやARマーカーを個人で作成し楽しめる時代となっている点も見逃せません。
自分で作成してみることで、さらにARの面白さやARマーカーの奥深さを体験できます。まずは無料のARマーカー作成サービスを利用し、これまでとは異なった触れ方をしてみるのもよいでしょう。